急増しているナッツアレルギー。パン屋はどうする?
カリッと香ばしい、ピーナッツやクルミなどのナッツ類。
パン屋でも混ぜ込んだりトッピングに使ったりと使い勝手のいい材料です。
でも、このナッツ類、アナフィラキシーショックなどの重篤な症状を起こす可能性が高い、アレルギー物質なんです。
身近で手軽な食材、ナッツ
ナッツ(木の実類)とは?
一般的にナッツとは、食べられる種子のうち穀類と豆類以外のもの、かつ食用部分が堅い殻に包まれたものを指します。
- クルミ
- カシューナッツ
- アーモンド
- マカダミアナッツ
- ヘーゼルナッツ
- ピーカンナッツ
- ブラジルナッツ
- ココナッツ
- カカオ
- 栗
- 松の実
など、いろいろな種類があります。
ナッツ(木の実類)アレルギーとは?
ナッツアレルギーとは、ナッツの中のタンパク質が原因で起こるアレルギーです。
ごまやそばなどと同様に、経口免疫療法を行うことが難しく、重篤なアナフィラキシーも起こしやすい食物です。
一口に「ナッツアレルギー」といいますが、実はナッツアレルギーとはいろんな木の実アレルギーの総称です。
クルミ、ピーカンナッツ | クルミ科 |
カシューナッツ、ピスタチオ | ウルシ科 |
アーモンド | バラ科 |
ヘーゼルナッツ | カバノキ科 |
ブラジルナッツ | サガリバナ科 |
カカオ | ヤオギリ科 |
ココナッツ | ヤシ科 |
アレルギーを起こす原因物質が木の実ごとに違うため、アレルギーが出たらどのナッツが原因なのか、細かく調べることになります。
ただし、科目が同じクルミとピーカンナッツ、カシューナッツとピスタチオには交差抗原性があるため、どちらかにアレルギーがある場合はもう片方にも反応が出ることが多いようです。
また、アーモンドはバラ科の種実なので、りんごやももなど同じバラ科の果物でもアレルギーが出ることがあります。
ヘーゼルナッツにはシラカバ花粉やバラ科の果物、セリ科の野菜との交差性もあるんだとか。
ナッツと果物?と思いますが、ナッツが種子であることを考えれば、納得せざるを得ません。
モモの種とアーモンド、確かにちょっと似てるかも。
いろんなところに潜んでる?
クッキーやチョコレートなど、お菓子やパンのトッピングによく使われますが、怖いのはペースト状のナッツを原材料としたものがあるということ。
コクを出すために、カレーやラーメン、アイスクリーム。
見逃しがちな所では、保湿クリームの中にナッツ類のオイルが潜んでいることもあります。
チョコレートやココアはカカオの実が主原料です。
また、ナッツ類にはニッケルなどの金属も多く含まれるので、金属アレルギーの方も注意が必要です。
ピーナッツはナッツじゃない
ナッツはナッツでも、「ピーナッツ」は豆類なので、ナッツアレルギーの中に入りません。
アレルギーの項目として「落花生アレルギー(ピーナッツアレルギー)」という個別のものがあります。
名前が紛らわしいですが、「ピー(pea)+ナッツ(nuts)=豆のナッツ」という意味。
ピーナッツにアレルギーがあっても、ナッツ類を除去する必要はありません。
急増しているナッツアレルギー
1位は鶏卵、2位は牛乳、3位は?
こんな記事を見つけました。
クルミアレルギー、9年で10倍超 重篤症状も、消費増一因か―表示義務付けへ・消費者庁
2011年に実施した調査では、クルミによるアレルギーの発症数は40件だったが、14年は74件、17年は251件に増加。20年は463件に達した。アナフィラキシーショックなど重篤な症状が出た例も、11年は4件だったのが20年には58件確認された。
アレルギーを起こした食品別で見ても、20年の調査では鶏卵(33.4%)と牛乳(18.6%)に次ぎ、クルミなどの木の実類が3番目(13.5%)に多かった。木の実類の中では、クルミが半数以上を占めた。
ナッツの中でも、特にクルミのアレルギーがここ数年で急増しているというニュースです。
その中でも触れられていますが、ここ数年で、ナッツアレルギーの患者さんが急増しているのです。
2017年の前回の調査では、1位:鶏卵、2位:牛乳、3位:小麦、4位:木の実類でした。
2020年の調査では、1位:鶏卵、2位:牛乳、3位:木の実類、4位:小麦となり、3位と4位が逆転。
木の実類は8.2%から13.5%に急増しました。
今まで三大アレルゲンといえば「卵」「牛乳」「小麦」だったのが、今では「卵」「牛乳」「ナッツ」になっているというわけなのです。
↓こちらは別の記事ですが、
クルミアレルギーが急増 原因食物「木の実類」が「小麦」超え3位に
ここ最近、お客様からのお問い合わせに対応していると、ナッツのアレルギーの方が増えている気がしていました…
実際に増えていたんですね…
なぜこの10年足らずで、ここまで患者さんが増えているのでしょう?
「健康のために」が一因?
健康志向で人気が過熱したナッツブーム
テレビや雑誌などで「健康に良い脂質」として話題になったオメガ3に代表される不飽和脂肪酸。
その不飽和脂肪酸をたっぷり含んでいるのが、ナッツです。
ここ数年で、日本人のナッツの消費量は格段に上がりました。
国内消費量が約2倍に
クルミの国内消費量は、2011年には9872トンだったのが、2020年には1万8826トンと、9年前の1.9倍にまで増加しています。
国外から輸入する量も、10年前とは桁違いに増えています。
消費拡大を受けて、総務省の消費者物価指数にも2020年から「ナッツ」という項目が追加になりました。
確かに、近頃スーパーでは、よく目立つ場所にミックスナッツやハニーナッツなどが売られている気がします。
確かに栄養価は高い
ナッツは、アレルギーのことを置いておけば、確かに万能食といってもいいほど栄養価の高い食べ物です。
炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルと5つの栄養素がバランスよく含まれています。
先ほども挙げた「体に良い脂質」オメガ3などの不飽和脂肪酸、抗酸化作用の高いビタミンE、代謝を高めてくれるビタミンB群など、普段の食事では取りづらい栄養も、ナッツならお手軽に摂取することができます。
重篤な症状になりやすい
栄養に恵まれたナッツですが、一度体内で感作が起きてアレルギーを起こす準備ができてしまうと、根治しにくいと言われています。
いろいろな食べ物や化粧品に使われているので、アレルギーが治ることが望ましいのですが… 卵や牛乳のように食べられるようになる見込みが、ナッツの場合は低いのかもしれません。
また、たとえ少量の摂取でも、アナフィラキシーなどの重篤な症状を引き起こしやすいのも特徴です。
重篤な症状を呈した食物では、単独品目でクルミが落花生(ピーナッツ)の症例数を上回ったというデータもあります。
安心して食事ができる社会へ
「くるみ」を表示義務化へ
2022年6月1日のNHKニュースです。
消費者庁は、「くるみ」の表示を、現在の推奨から義務に変更する方針を明らかにし、制度を見直すための手続きを早ければ今年度中に始めるとしました。
消費者庁の伊藤明子長官は、「くるみによる食物アレルギーは増えており、できるだけ早く手続きを進めていきたい」と話しました。
これはとてもいいニュースです!
2022年度中には、クルミが「表示義務」品目に加わる見通しとなりました。
現在、アレルギー 物質として表示「しなければいけない」物質は7品目。
クルミやカシューナッツ、サバなど、その他の21品目は、表示「した方がよい」品目なのです。
重篤な症状が出るアレルギーなのに、表示義務がないなんて・・・怖すぎます。
tontonはナッツアレルギーにも対応しています!
こっそり「卵乳ナッツ不使用」になっています。笑
卵・乳アレルギー対応パン工場を作ってネット販売を開始した当初は、トントンでもクルミを使用していました。
クルミを使ったパンは、どれも人気で売れ筋の商品でした。
現在は「卵」「乳」に続き「ナッツ」も完全不使用になっています。
先見の明がある?笑
いえいえ、お客様からご要望をいただいたことがきっかけです。
ナッツアレルギーのお客様より「卵と乳製品と同じようにナッツ類も使わずにパンを作って欲しい」というご要望をいただき、2013年4月よりクルミを工場に持ち込むことを止めた経緯があります。
そのときのことは、2022年05月03日のお知らせ食物アレルギーの原因。1位は鶏卵、2位は牛乳、3位は?に書いています。
昔の事務所、懐かしい!
「食べたいけど食べられない」が「食べられた!おいしい!」にしたい
くるみやアーモンドは、パン屋には欠かせない原材料。
使っていないパン屋は見たことがありません。
人気だったクルミの扱いをやめるのは勇気のいることでしたが、「やめてよかった」と今では思います。
「食べられるけど食べたくない」と「食べたいけど食べられない」は全く違います。
「食べたいけど食べられない」が「食べられた!おいしい!」って言っていただけるようなパンを作りたい。
それは、当時から変わっていないトントンの想いです。